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夏の終わり

高校2年のときの話です。

私は、ラグビー部に所属していました。
私が片思いしていた彼女は、バスケット部に所属していました。
意気地なしの私は、彼女に気持ちを伝えることなどできませんでした。
ラグビー部とバスケット部は顧問が同じこともあって、合同で合宿しました。

そのときの話です。

私が彼女を好きなことは、ラグビー部では有名になっていました。
そのせいで、彼女の耳にも入っていたんだと思います。

合宿も、明日で終わりという日の夜に、海岸でキャンプファイヤーをみんなでしました。

彼女は、私の隣に腰掛けてくれました。
私は、ひとことも話せないくらいに緊張していました。

その沈黙を破ったのは彼女でした。

私の飲んでいた缶コーヒーを、「それ、少しちょーだい」といって、
彼女が直接飲んだのでした。

ものすごく、どきどきしたのを覚えています。

そのあと、2人は、キャンプファイヤーの輪を抜け出すことにして、
海岸の岩陰のほうへ行くことにしました。

2人とも会話がはずみません。
岩陰は薄暗く、なんとか月明かりで彼女の存在がわかる程度でした。
脚に絡まるように波が打ち寄せていました。

彼女は、唐突に、打ち寄せる波をすくい、わたしにかけてきました。
私も、それに応酬して、彼女に波をかけました。

「ばかぁ。ずぶぬれになったやん。」
「馬鹿っていうなぁ」
「馬鹿だから、馬鹿っていったんやん。どーすんのよ。ずぶぬれやん」
「脱げば?」

そのあと、また沈黙ができた。
言うんじゃなかった。

彼女は30秒くらいしたら、Tシャツを脱いで私に投げつけてきました。
月明かりの中で、彼女は胸を抱えながら、立っていました。
ジャージを履いて、上はブラジャーだけのようでした。
よくは、見えませんでしたが、震えていたような気がしました。

幼かった私は、そういう経験もなく、どうしていいかわかりませんでした。
ただ、緊張して、彼女を思いやる余裕もありませんでした。

そして、投げつけられたTシャツを、彼女に投げ返してしまったのです。

「本当に脱ぐほうが、馬鹿やん」と。

彼女は、黙ってTシャツを着て、みんなのいるほうへ走っていきました。
その日から卒業式の日まで、彼女の笑顔をみることを私はありませんでした。

卒業式の日に、ひとこと「もう、会うことないんだね」と笑顔で話しかけてくれたのが最後です。

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